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K nife(赤降)

 
 
あの鮮烈な出会いから、どうしてこういう関係になったのか。
それは正直俺としてもさっぱりわからない。
 
 
  nife(赤降)



どうしたの光樹、と赤髪の彼はゆったりとした動作で俺の髪を透きながら瞳を緩める。
その優しい動きに胸の辺りがくすぐったくなるような思いを抱きながら、俺の答えを待っている彼に正直に伝える。
初めて会った時のこと、考えてた。
ああ、と赤司は少し微妙な顔をした。
俺が、まだ中にいた頃のことだね。
うんそう、と目の前の彼に努めて柔らかく微笑む。
慮る、というほどのことはないけれど、このくらいはした方がよいだろう。あのときはまだ、赤司は、今俺に触れている赤司ではなかった。その事実を、知り、認め、自分でもいまだに信じられないけど、赤司から思いを告げられ、好きになって――紆余曲折を経て、今に至るわけだけれど。互いの休日を合わせ、一緒のベッドで一夜を共にし、翌日の朝まで一緒に過ごすようになった現在でさえ、あの時のことはなんとも形容しがたい。
 
―――いきなりのアレは、びっくりしたなあ。
…これから一生、あの場にいたメンバーにはあの時のことを言われ続けることを甘受するつもりだよ。
 
ほんの少し、形の良い眉尻を下げて赤司は笑った。
本人としてもあの時の行動は――たとえ、それがもう一人の自分、の行動であったとしても――いろいろと、思ってしまうところがあるのだろう。
 
火神には一応、WCが終わってからあの時のことを謝ったんだが。
ああうん、俺も火神から聞いたよ。
しかし、なんというか…謝って逆に拍子抜けされた感が否めなかった。
あー…、うん、そうかもしれないね?火神も最初に会った時とのギャップに驚いたのかも。
 
実際、黒子にこちらが本来の赤司君です、と、改めて再び紹介された赤司は、俺が最初に出会った赤司とは格段に雰囲気が違った。コートに立っているときは、…まあ、勝負事の場だからプレイヤーならば誰しもいつもと違う雰囲気を纏うことがあってもおかしくないのだけど。
通常の状態でここまで違うのか、と。
圧倒的な存在感やスマートな物腰、溢れる英知は恐らく2人の赤司の中で共有し身に着けているものなのだろうが、その強いオーラの醸し出し方が全く違う。一言で言えば、対他人に対しての柔らかさが違うのだ。特に表情や声色にそれが顕著で、人間の印象は造形そのものよりも、対人に発せられるものによって決まるという教師の言葉を思い出し、赤司が二重人格であることを聞いていたとはいえ、実際に目の当たりにして妙に納得がいった。しかしそれでも、そのギャップに簡単に慣れることなど簡単にできるわけではなく。
 
 
今だから言えるけど、俺、最初は赤司のことすげー怖かった。
…知っていたつもりだったけど、直接光樹の口と聞くと、ショックだな。
ふふ、ごめん。でも不思議だよな、って。あんなに怖かったのに、今じゃこんなふうに付き合ってるんだから。なんでなんだろうなあ。
…光樹は、吊り橋効果のことは知ってるだろう?
え?うん。一緒に怖い思いをしたり、怖い思いをした後に一緒にいたりすると、恋愛感情が芽生えやすくなる、っていうやつだろ?…え、もしかして赤司は俺が赤司を好きになったのは吊り橋効果のせいだと思ってるの?それは違うよ?
……どうして?
だって俺が赤司を好きになったのは、赤司が告白してくれた後だから。だからあの日は吊り橋効果にはあってないよ。まあ…告白してくれた時も、全然怖くなかった?って言われると…困るけど…えっと、でも…
 
段々と墓穴を掘り、あわあわとし始めた俺を、赤司は仕方ないなあと肩を竦めて、いいんだよ、と笑った。
こればっかりは光樹に限ったことじゃないんだ、相手に威圧感というか、プレッシャーを与えてしまうのは、どうやら俺の方にも問題があるみたいだから。そうか、吊り橋効果じゃなかったのか。…でも。
 
珍しくいつも歯切れの良い赤司が口ごもったので、俺は首を傾げた。
どうしたの赤司。そう尋ねつつ、先ほどとは逆に、そっと手を伸ばして俺が赤司の髪を梳く。限りなくゆっくりと、丁寧に。俺の手つきが、彼に不安ではなく、安堵を与えられるように。
 
少し目を見開いた赤司が、ふいに悲しげな顔をして、一瞬でそれを押し込めて。言った。
 
「ナイフだったら、良かったのかな」
「え」
「はさみなんかじゃなくて、ナイフだったら。
もっと強烈に恐怖を感じさせられていたら。
そしたら、光樹はもっと早く 僕 とこうなってくれてた?」
 
やだな、そんな顔しないでくれよ、冗談なのに本気みたいになってしまうだろ。
俺はそんなに冗談が下手?と尋ねられ、ううん、そんなことないよ、とゆるく首を振った。
 
 
普段、眠りにつくのは俺の方が早い。
けれど、今日は夜が更けて明朝と呼ばれる時間が近づいても寝付くことが出来なかった。
とは言え、赤司に俺が眠れないことを気にさせるわけにはいかなかったので、俺はおやすみを言った後、目を閉じたままでいた。眠っているふりは当然すぐにばれる。けれど、疲れすぎて眠れないような、心と体が乖離してしまうということもあるのだということを大人になって知った俺たちは、同時にそのちぐはぐに気付いていても相手の行動を甘受する癖を身に着けた。
目を瞑ったままの俺への、赤司の囁きにも似た労わりの言葉と母親が揺籠を揺らすような優しい動作に満たされながら、俺は幸せなひと時を過ごし、赤司が眠りにつく頃合いを見計らって、そっと瞼をあけた。
灯りはベッドルームのベッドから一番遠い端の隅っこで、小さい橙がほんのりと灯されたままになっている。赤司の部屋のカーテンは当然の様に重厚で、カーテンの向こう側は宝箱の様に光に溢れているはずなのだが、華々しい明かりはその奥で息を潜めている。
薄ぼんやりとした視界の中、俺の目の前で赤司は穏やかに寝息を立てていた。
学生時代と変わることなく、年齢に比べて少し幼く見えてしまう美しい顔だ。けれど、年齢相応に疲れは溜まるのだろう、目の下にうっすらと隈が出来ているのがこの距離だと分かる。昨日まで大きなコンペの準備に追われていたと言っていた。俺が知っている限り、学生の頃から多忙を極めていた赤司は、大人になっても当然の様に様々なことに忙殺される毎日を送っている。父親に任されているグループの関連会社の業務をする傍ら、彼個人で赤司グループとは関係の無い株取引や、日本のプロバスケットボールチームに関連する取引にも携わっているらしい。仕事のことを詳しく尋ねても良いのか測りかねるので聞きたいことを全て聞けてはいないけれど、おそらく、俺が知らないだけで俺が想像するよりずっと様々な事業に、多くの人に、必要とされている。そして赤司自身も、それをこなすことを当たり前のように思っているようだった。休息ですら、仕事を効率的に行うための一種のカリキュラムの様にこなしているのを見ると、せめて俺のそばに居る時くらいは、柵を忘れてゆっくりとしてほしいと願う。きっとほとんど誰も見たことがない赤司の無防備な寝顔は、普段よりこんなにも幼く見えてしまうのだから、なおさら。
俺にだけに許された稀有な時間を楽しみながら、俺は眠れなくなった原因について思いを馳せた。
 
 
あの時、二の句が告げられなかったのは、「彼」の出現に驚いたからではない。
こうやって「彼」が俺の前に現れるのは、初めてのことでないのだ。
 
時々、赤司ですら気づいていないのかもしれないが、もう一人の彼、が一瞬だけ顔を出す。
本当に一瞬だ。ただの言い間違いなのかと思ってしまうくらいの、時間の歪み(ひずみ)の間だけ。
それでも俺には分かる。
彼が、俺に会いに来た、と。
 
 
「せいじゅうろう」
 
暗闇の静寂(しじま)を切り裂くように、いつもは口にしない、恋人の名前を呟く。
焼け切るような熱さが喉奥を通り抜ける。
同時に眉間の奥が熱と痛みを孕み重くなり、零れ落ちたのは名前だけではないと濡れた頬で感じる。
俺の呼びかけにもちろん返事はない。
だって赤司は、いや、「彼」は俺の目の前で健やかに眠りについている。
 
だから本当に切り裂かれたのは空間ではなく、俺の胸のどこかなのだと思う。
 
 
赤司から、下の名前で呼んでくれないか、と言われた時があった。
恋人同士なのだから当然と言えば当然だ。けれど俺は、恥ずかしいから、とか、周りの奴に感づかれてしまうからとかなんとか、一度適当に理由を見繕って断ってしまった。赤司はほんの少し悲しげに笑い、それ以来、その話題を上らせない。本当は、もっと理由を突き詰めて逃げ場のない懇願をしてきたり、最悪口をきいてくれないくらいへそを曲げられてしまうかもしれないとも思ったのだが、その後の赤司は拍子抜けしてしまうくらい変わらなかった。
 
そしてそれに安堵してしまっている俺を、見えない刃は深く深く切り裂いていく。
 
 
 
一目ぼれした「彼」、を、剃刀のような人だと、思っていた。
 
すっぱりと切れて、傷自体はパッと見にはそんなに深く見えないのに、水に触れるとその存在を一気に思い出す。真綿でじわじわと追い詰めるなんて可愛い物じゃなく、鋭い痛みで意識を縛って忘れさせなくさせる。その烈しさすら愛しい。
俺は最初から、「赤司征十郎」の虜だった。
その名前を、確かめるように、宝物のように、秘密のお守りの様に、誰にも咎められない一人きりの時にひっそりと呼んでしまうくらいには。
だから、再会した「彼」が、俺の想い人でなくなっていたことに、俺は酷く狼狽した。
二度目の「初めまして」が永久に近い失恋の瞬間だった、そのときの俺の絶望を誰が分かってくれるだろうか。
それだけじゃない。あろうことか俺の好きになった赤司ではない赤司が、黒子の言う「本来の赤司」が、俺に好きだと告げた時の動揺と狼狽。その後の、好きになった相手に好かれているはずなのにどうすることも出来ない自分へのもどかしさと、一目ぼれした相手とは違うはずの赤司に好かれているのに嬉しさを感じてしまうことへの自分への嫌悪は、誰にも理解できないと思う。いや、理解してほしいと思わない。
あの痛みは、俺だけのものだ。大事すぎて誰にも否定されたくない。
だからそのことで人知れず枕を濡らした日々のことを、俺はこれから一生赤司に言うつもりはない。
笑い話にもできないくらい、俺にとって大事なことなのだ。
 
赤司と過ごす中で気づいた、「彼」の出現は、実は付き合うことを決めた後のことだ。もちろん戸惑った。最初はもう一人の「彼」が、赤司に近づくなと忠告しにきたのかと思った。何せ男同士だ。もう一人の自分が選んだ相手を許せないと思っているのだと思った。ようやく気持ちを落ち着かせて好きな人と付き合えると思ったのに、突如失恋した相手に付き合うなと言われると思って、俺は涙目だった。というより、たぶん泣いていた。
けれど、「彼」は言ったのだ。
「「俺」を、よろしく」と。
するりと俺の涙を拭いて一瞬で去って行った「彼」に、待って、と言いそうになったのをぐっとこらえた。それは彼の本意ではない気がした。
 
ムシの良い話かもしれない。
けれど。
 
もう一人の彼もまた、赤司征十郎であり、俺のことを愛していてくれているから。
自惚れかもしれないけれど。
彼が存在を垣間見せるのは、どうやら本当に俺の前だけのようで、俺と赤司を心配してる時だけのようだから。
 
大好きだよ、赤司、征十郎。
俺の中で2人を同一人物として受け入れることがまだ出来ていないだけで、
どちらの君も、大切なんだよ。
愛しているんだ。
だから大丈夫、安心していいんだよ。
 
刃物の様に、使いようによって人を傷つけることも助けることも出来る君を。
ずっとずっと、緩やかに、手入れしてあげたいのだと。
 
ナイフでも、剃刀でも、はさみでも。
全て使い方次第。愛情のかけ方次第で、ながく、ながくもつ。
馬鹿と鋏は使いようというから。
馬鹿な俺は、全力で傷つきながら、2人の君を愛すよ。
 
今はまだ、名前を呼べない理由を伝えられない目の前の赤司に、ごめんね、大好きだよとだけ呟いて、俺は泣きつかれて眠りについた。
 
 
 
 
 
 
――――もだよ、

そうつぶやいたのが誰だったのかは、揺れる燈火だけが知っている。
 


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