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A ct(青黄)



薄い薄い皮膚の下、躍動する肉、熱き血潮が潜む、さらにその下、

あなたのこころに触れたい。

 
A  ct(青黄)

 

 

「っふ、黄瀬、おまえ、なにやってん、だよ」

 

耳元で囁かれる低い音に、体の温度が増す。

青峰っちの声、本人には言ったこと無いけど、すごく好きだ。

例えば、バスケットボールを操る様に器用に俺の体を這う指も、大量の食べ物を消費する口がキスの雨を降らせるのも、好きだけど。

シている時に囁く声が、俺の名前を呼ぶその声が、俺にとっては何よりも。

 

「ん、確かめてるんっス、よ」

浅黒いけれどなめらかな背中、耳の後ろの小さなほくろ、ゆるやかに動くのど仏。

あと数時間もすれば、確かめられなくなるから。

手で、目で、舌で。

俺の全てで、この人の輪郭を確かめたい。

 

本当に、触れたいところには、手が届かないから。

 

 

 

「ん、あ」

何時もバスケをしているのが当たり前で、故に常に少しかさついている指先が、俺の体を拓こうと、確実に着実に責めていく。

 

きもちいい。

 

力の入れ方、方向、緩急。

全て、馴らされ染められ溺れさせられている。

それがこんなに嬉しいなんて、男として俺はやっぱりおかしいんだろうか。

 

「何をかはしんねーけど。どうやらまだヤってる最中に別のこと考えられるくらいには、余裕があんだな?」

 

ハッとして自分に覆いかぶさろうとしている相手を見ると、ぎらぎらとした瞳に、怒気の色が灯っていた。しまった。

 

「やっ、ちが、だめ、青峰、っち! あ、っ」

一瞬瞼の裏が光ったかと思うと、先ほどまでは聞こえていた、緩いスプリングの軋む音さえ全て吹き飛んで、俺は突如深く捻じ込まれてきた熱い欲望しか感じられなくなった。

 

「あ、やらっ、ン、そこ、そこは、やぁ・・・っ」

「っハ、あいっかわらずエッロ・・・」

 

―――初めてのときは、中3になる前の春休みだった。

今もそうだけれど、その時ですらお互いに彼女が居て、どうしてセックスしようと言うことになったのか、明確にはよくわからない。ただ、俺は、青峰っちの『特別』が欲しかった。たとえそれがどんな形であれ。

正直自分はともかくあの青峰っちが男の俺の身体に勃つとは思っていなかったから、予想に反して萎えることもなく、寧ろその日のうちに一通り試して上々だった身体の相性には頭を抱えた。

 

せめて、俺は痛いとかだったら、よかったのに。

 

「ア、い、やッ……んあッ、イイ……ッ」

 

恐ろしいことに。

女の子は最中に相手の男のために快楽に溺れる演技をするものらしいが、俺は初めての時から今に至るまで、最中に演技などしたことがなかった。まあ最初は勿論、気分を盛り上げるために、多少のリップサービスはした。青峰っちは絶対そういうのが好きだと踏んで(そしてそれはやっぱりその通りだった)、わざとやらしい言葉を選んで大げさに褒めたりもした。けれど、途中からサービスする必要もなくなった。直接身体を弄られて漏れた溜息も、喉の奥に引っかかる感嘆も、どれも自然と出てしまうもので、行為が進むにつれ我慢するのも惜しいくらいの快楽に酔った。それに気づいた青峰っちが、AV女優並に淫乱な言葉遣いをしていた俺の唇に満足そうにキスを落とし、お前、かわいいな、俺の物じゃないのが惜しいわと薄く笑ったその時に。

 

俺は、間違えたのだと気づいた。

 

この人の『特別』が、俺は欲しかった。

そして手に入れた。願いは叶ったのだ。

今の関係は『特別』で、俺しか掴むことはできない。

青峰っちが、「手に入れたいけれど手に入らない物」という立ち位置。

 

これからずっと、いつかこの関係に終わりが来る時まで、俺は『ずっと誰かの物である俺』でなくてはならない、と。

 

そのことに気付いて。

軽く触れただけの唇が甘く甘く爛れているのに、

蹂躙された体のあちこちは未だに熱くて堪らなく、脳は湯銭にかけられたチョコレートの様にとろとろと溶けだしそうなのに。

 

俺ですらその場所がどこにあるのか分からない、

たぶん、痛みの方向から心臓の間近にあると思われる、

こころだけは、固く凍ってしまった。

 

 

「あー、ヤベ、は…っ、俺…そろそろ………ッ」

 

それでも、耳元に響く浮かされた熱を求めて、漫然と関係は続いている。

声の主が荒々しく腰を穿つ度に落ちてくる汗とくぐもった息が、自分にはある筈がない器官があるかのように錯覚させる。あられもなく響く水音は自分が生成したものではないし、子宮だって直腸だって、あれば必ずそれ以上先に進めない限界はあるけれど。

 

「あ、おみね…っち、やぁっ、もっと、アッ…もっと…ッ」

 

きて。

もっともっと奥へ、戻れない深い深いところまで。

 

「おっま、……」

 

ギリッと青峰っちが奥歯を噛みしめる音が聞こえた気がした。

見下ろしている強面の顔が、眉間のしわが深くなることによってさらに凶悪になる。

ああ、またそんな顔して。

見得ないはずの臓器が、俺の最奥が、疼くからやめて欲しい。

そんな顔を、彼女にも見せているの?怖がられたりしないの?

――それとも、そんなふうな顔を見せるのは俺だけなの?

ほんの少しだけ、胸の辺りの氷がじわじわと溶けだしたような気がして、俺は自嘲気味に笑った。妄想で優越感に酔うなんて馬鹿だ。

 

「なに、嗤ってんだ、よッ」

「ふふ、 っ、ン、そこ、す、き…んッ」

「……は、煽るんじゃね…ッ」

 

今思えば、あの日を、一度きりの過ちにしてしまうことも出来たのかもしれない。

本当の意味で「手に入れたいけれど手に入らない」存在になるためには、もっと俺自身、あの後誘われたからと言って浅はかに身体を許さず、勿体ぶるフリだけでもした方がよかったのかもしれない。

 

それでも、一度知ってしまったら、もう、戻れない。

手に入らなくても、こころに触れられなくても、それでも。

 

この場所に居る時だけは、アンタを好きだって言っても許されるから。

 

 

 

 

「…彼女さん、まだ大丈夫なんスか?」

「ん、……あー、もうそんな時間か?あと1時間くらいはあっけど」

「ま、じゃ、俺そろそろ行くっスわ。鉢合わせなんかしたらたまんねーし。掃除とか換気はやっといてよ、ばれないとは思うけど。あーでも!ベッド周辺とかは流石に何もしないのはマズいッスよ?」

「んー、おー」

 

黄瀬はシャワーを浴びる様子も見せずに早々に帰り支度をし始めた。

…とは言っても、いつも通りの行動だ。

黄瀬が俺の部屋に来ること自体は多い。割と頻繁に訪れるテツや火神と比べても、その差は歴然としている。けれど、部屋の中での行動範囲はずっと狭い。たとえば他のキセキの奴らや大学のダチであれば、面白がって出入りしたがるようなバスルームへ入ることや、触らないような所などに触れるといった、俺個人のプライベートスペースに自分が侵入することを、黄瀬は酷く嫌がった。――ベッド以外は。

 

先程の行為で喉を枯らしているようだった黄瀬に、ペットボトルを投げてやる。

ん、ありがとッス、と一口嚥下すると、再度俺に投げ返す。

そうやっていつも通り一つのペットボトルの水をお互い分け与えてから、簡単に情事のあとの後始末をして、衣服を身に着けた黄瀬はひらりと帰って行った。

 

 

黄瀬を送り出してから、張りつめていた何かが緩んだ俺は、黄瀬の前ではつかない深く長い溜息をついた。

次の約束はしなかった。

それはこの関係を始めた時から変わらない暗黙のルールのようなものだ。

例えば、会うことを約束する時は出来る限り、直接会っているときにして携帯などに証拠を残さないようにすること。例えば、黄瀬は職業柄身体を人前に晒すことが多く、そしてお互い部活やらで着替えることが多いから、行為の時の痕は残さないこと。例えば、セックスすると分かっていて部屋を訪れるときには、部屋に匂いが残るとまずいから香水はつけてこないこと。

等々、そういう、俺と黄瀬の間には互いに口にて確認したりはしない暗黙のルールが馬鹿みたいにたくさんある。

何が馬鹿らしいかって、その一つ一つを丁寧に守ることで、全てを開放するベッドの上での快感が増し、それを黄瀬も俺も楽しんでいることだ。同時にすべてを雁字搦めにされていることも知りながら。

 

頭をがしがしとかき混ぜて、先ほどのペットボトルの蓋をあけ、喉に流し込む。

不味い。

別に飲めないというわけではないけれど、なんでこんなモンを好むんだろうか。

ボトルの水は正直俺の部屋には不似合いな、フランスの硬水だ。

昔からずっとその銘柄を好む黄瀬のために、それが俺の冷蔵庫からこれまで切れたことは今のところ、ない。

その意味を、黄瀬は気付いているのだろうか。

…恐らく、そんなことに気付く余裕もない。

そもそも、俺自身が硬水なんて好まないことすら、気づいていないかもしれない。

 

存在を目の当たりにしたことすらない俺の今の相手に、頻繁に部屋を訪れる自分自身という「誰か」がいる痕跡を残さぬよう、己の言動に気を張るだけで精一杯なのが、普段は気が利かないと言われる俺にですら、感じ取ることができた。

 

つい先ほどまで愛し合っていたベッドのシーツを撫ぜる。

柔らかくしっとりとそこは愛欲に泥濘んでいた。

シーツの波に溺れそうになりながら、必死に俺にしがみつこうとする黄瀬の金髪が幻覚の中でもさらさらと美しく、そして捉えどころがなかった。

 

 

「お前抱けるのに、なんで女なんか抱くんだよ、バァカ」

 

ベットを降りれば、そこが舞台の上。

黄瀬が出ていった、これから誰が来ることもない扉を見つめて、終わりの見えないこの関係を始めたことを、そして簡単には終わらせる術を思い浮かばない自身を呪った。



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